台湾在住の人が書く日記とか


by horizenryokan
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マッピング・コミュニケーション

アイデア出しに「マッピング・コミュニケーション」。顧客の懐に飛び込む疑似訓練「偏愛マップ」。齋藤さんに学ぶ企業が続々。日本語と教育の研究から編み出された技は、職場にも通じる。(編集部 各務滋)
   ◇      ◇
 10月8日。埼玉県川越市の駅前のホテルに齋藤孝さん(43)が現れた。
 150万部を誇るベストセラー『声に出して読みたい日本語』(草思社)の著者。NHK教育テレビの番組「にほんごであそぼ」の企画・監修者。明治大学文学部教授だ。
 齋藤さんにとって、今年54回目の講演だった。しかし、聴衆の顔ぶれはいつもと毛色が少し違った。税理士・会計士と事務所スタッフ50人の研修会だったのだ。
 参加者に届いた案内状には、
 「各自、白い紙1枚と3色ボールペンを用意してきてほしい」
 とあった。当日、齋藤さんは、
 「2人一組になって下さい」
 と言った。何が始まるのか。
 問題が出された。
 「なにかを『ボックス』にしたことで成功した商品を挙げ、その応用で新商品を企画して下さい」
 思い浮かんだキーワードを2人で1枚の紙に書き出す。その際、「すごく大事」なことは赤、「まあ大事」は青、「主観的に面白い」と思ったことは緑の3色に色分け。キーワード同士を線でつなぎ、思いつくアイデアをふくらませてゆく。齋藤さん提唱の「マッピング・コミュニケーション」の実地訓練だ。
 参加した地元の税理士宮寺正美さん(40)の組が思いついたのは、
 「昼間は空室の多いカラオケボックスを会議室として活用する」
 組んだ相手とは初対面。なのに、自分ひとりでは出てこないアイデアを「言葉」にできた。
 これは仕事に使える、と宮寺さんは思った。税理士の顧客は企業の経営者。だが、税金の問題よりも「良い従業員が集まらない」「商品の方向性が定まらない」といった漠然とした相談が案外多い。
 「やりたいことが心の中に実はあるのに、形になっていないだけの人が多い。目に見える『マップ』を使いながら話すと、スムーズに答えを出せる気がします」
 ◆会議を元気にする方法
 「嫉妬」と「保身」をもたらす上下関係を、会議から追放。とにかく時間内に「決める」。
     *
 この研修を企画したのは宮寺さん。4歳の長男のおかげだ。「にほんごであそぼ」を一緒に見ていて、最後に流れた「監修 齋藤孝」の字幕に気づいた。
 息子は番組で『寿限無』をたちまち覚えてしまった。インパクトの強さは間違いない。しかし、日本語の専門家で、研修の趣旨に合うだろうか。書店で調べた。
 「実は、ビジネス書もお書きとはそれまで知りませんでした」
 齋藤さんの主な著書は、42冊ある。そのなかで、ビジネス書は『会議革命』(PHP研究所)、『質問力』(筑摩書房)をはじめ、7冊を数える。意外な多さだ。
 ●制限時間内に決める
 しかも、ビジネス書のジャンルに本格進出した01年7月の『「できる人」はどこがちがうのか』(ちくま新書)の刊行は、実は出世作『声に出して読みたい日本語』よりも、2カ月早い。
 齋藤さんは今年、75回の講演をこなした。うち、ビジネス関連が29回。つまり5回に2回は、企業や業界団体の招きによる講演だった。ちなみに、これは教育関係の講演回数とほぼ同じ。今や「日本語とビジネスの齋藤孝」だ。
 齋藤さんを招いた大手企業のひとつに、野村証券(本社・東京都中央区)がある。5月下旬、新任部長職20人の研修だった。
 この研修で齋藤さんはまず「コ」の字形に整然と並ぶ机を見て、
 「列をバラバラに崩して下さい」
 と指示。2人一組にさせて「アイデア出し」の実習を始めた。前述の「マッピング・コミュニケーション」を、ここでも使った。制限時間20分。課題はこれだ。
 「明日から残業をなくす具体的な方法」
 この実習には、齋藤さんが説く「会議を元気にするコツ」がほぼ網羅されている。
 第一に、会議の主催者は具体的な答えが出るテーマを設定することだ。野村証券の研修で、実際に出たアイデアをひとつ挙げると、「終業時間を過ぎたら、食事に誘い出す」
 「ダラダラ働かない」みたいな抽象論・精神論に比べ、少なくとも即効性はありそうだ。
 第二に、タイムリミットを決めることだ。これには二つの意味がある。まず、課題の実行期限。「明日から」なくす方法を問うている。次に、考える時間そのものを「20分」と区切った。理由は簡単だ。
 「締め切りのない原稿は書けないでしょう?」(齋藤さん)
 齋藤さん自身も、原案はできているのに、2年たっても原稿にできていない仕事がある、という。
 「編集者から締め切りを設定されなかった仕事ばかりでした」
 時間を限ると、優先順位の高いことから議論するようにもなる。
 ●発案者に押しつけない
 第三に、秩序を壊すこと。机の列を崩す狙いはそこにある。上司が前に並ぶ「御前会議」方式では、「発案者の『肩書』、つまり『だれが言ったか』で決めがちです。まず、『序列確認会議』をやめましょう」。
 上下関係はアイデアと無縁だ。
 「上司に求められる重要な役目は決定に責任を持つことだけ」
 著書『会議革命』などで提唱した手法を発展させた「アエラ版会議5カ条」を齋藤さんに作ってもらった。
   ◆アエラ版 齋藤孝の『会議を元気にする5カ条』
   (1)結果の出るテーマを設定する
     司会進行役による「仕込み」が会議の成否を決める。具体的な決定の出る課題を議題に設定する。
     例)残業を減らす方法/新入社員教育のマニュアルを作る
   (2)ネガティブな意見を言っているヒマがあったらアイデアを出せ
     「参加者全員が必ずアイデアを出す」「アイデアを出さない人は参加資格を失う」と言いかえても可。承認だけを求める会議は要らない
   (3)タイムリミットを決め、必ず何かを決める
     タイムリミットには<1>会議そのものの制限時間<2>「いつまでに何をやる」という決定事項の期限設定の二つの意味がある。時間切れになってもいいように、優先順位の高いものから次々に決めてゆく
   (4)2、3人でブレストする時間を
     これで全員に公平に発言機会ができる
   (5)「アイデアを出した人は、やらなくてもいい」ことにする
     会議で発言が出ないのは「言い出しっぺになると、やらされる」と思うから。発案者に「拒否権」を与える(自身がやりたい場合は別)。逆に、アイデアを出せなかった人は、上司であっても実働部隊として汗を流させる
 「(案を選ぶ際には)だれのアイデアかわからないようにする」
 「アイデアを出した人は、やらなくてもいいことにする」
 何もかも個人の能力のせいにする「成果主義」の悪い面へのアンチテーゼでもある。
 「会議で発言が出ない理由は『嫉妬』と『保身』にあるからです」
 発案者が気に食わないだけで提案に反対する「嫉妬」。言い出しっぺになると押しつけられると考えて発言を控える「保身」だ。
 「2人一組」のアイデア出しの後は、下の「会議の陣形」のように、小グループを作って「グループ1位」を選び、最後に全体の「1位」を選ぶ。
 ●「偏愛」を話題にする
 全体会議ではホワイトボードが2人一組の際の「マップ」と同じ役割を担う。同じ「ゴール」を全員が見て、各人の着想を文字という「形」にする。それだけで、
 「議論の速度は3倍以上になる」
 研修後、野村証券のある支店の「お客様サービス課」で、新商品のカナダドル建て債券を売り出す際、接客担当12人が、齋藤さんに学んだ「アイデア出し」と会議の手法で、営業企画を決めた。
 「初めて扱う商品でしたが、お客様のニーズに合わせた的確な商品提供ができ、期待以上の募集申し込みをいただきました」(同社)
 もう一つ、ビジネスに使える齋藤さん発明の「技」がある。
 「偏愛マップ」だ。
 スポーツ、食べ物、本や映画。思い浮かんだ「自分の偏愛するモノ」を、地図のように紙に書き出す。そして、ほかの人の書いたマップと交換しあう。
 一見、ビジネスとは無関係なようだが、相手との共通の話題を見つけるのだ。だから「偏愛マップづくり」は、
 「得意先とのつきあいの『疑似体験』として使えます」
 と富士通の高橋康哲・プロダクトビジネス営業部部長(46)が語る。職場では、「営業マンの後方支援部隊」。パソコンやサーバーの納入先である金融機関とのつきあいが多い。
 10月、同社で開かれた新任部長対象の「人間力研修」で、「偏愛マップ」を試した。これも、齋藤さんから与えられた時間は5分か10分と短かった。
 「どれだけたくさん書けるかに、意味があると思います。書けた項目の多い人は、それだけ相手と仲良くなるための『引き出し』を多く持っているわけですから」
 高橋さんの場合、日本酒に水炊き、冷酒なら焼き肉……と「酒」や「歌」を中心に14項目を書いたところで、時間切れを迎えた。
 意外に自分のことがわかっていないと実感したが、思い出せない「引き出し」は使えない。
 現実の接待の席では、いきなり紙を広げるのは難しい。しかし、顧客との接点を見つけて親しくなるのは、営業マンの基本技。新人社員に伝承するのに使えそうだ、と高橋部長は考えている。
 斎藤さんのビジネス論は、教育現場から生まれた。10月末、明治大学の齋藤ゼミを見た。
 ◆日常から宝を掘り当てる
 毎月のように新刊を出し続ける齋藤さん。その発想力と行動力こそを、盗みたい。
     *
 「齋藤ゼミが、企業に企画を売り込むという想定で、今から5分で企画を考えてください」
 齋藤さんが声を張り上げ、ゼミ生が2人一組のマッピング・コミュニケーションを始めた。飛び交う声がゼミ室の壁に反響する。齋藤流が定着した議論の場に、部屋が静まる瞬間などありえないのだ。
 「この方法だと、議論に参加しない人は一人も出ないんです。それに、各参加者の『総発言時間』が、だいたい均等になる。サッカーでいえば、ボール所有率ですね」
 ●総発言時間を均等に
 齋藤さんが説明する。
 机は2人がけだが、ゼミ生たちは体を斜めに相手の側に向けて議論している。齋藤さんは『会議革命』で、「机の角をはさんで座る」ことも提案している。真横に並んでは相手と意識が絡み合わない。正面差し向かいは、少し気詰まりだからだ。喫茶店などで、無意識にやっている人も多かろう。
 企業なら、有能なベテランと若手を組ませると、成功する企画を立てる発想法やコツ(暗黙知)が自然と若手に伝わる効用もある。
 さて、その後4、5人ずつ4組にまとまった学生は、「せーの」で一番面白いと思う案をいっせいに指さし、選ばれた案を煮詰めにかかった。そうして、開始から20分のうちに、
 「売れないコメディアンやホストに、齋藤孝が『落とせる会話術』を特訓。ドキュメンタリー企画としてテレビに売り込む」
 などの四つのアイデアが出そろった。
 実践に裏づけられた『会議革命』は、しかし、今のところ6万3500部。普通の著者なら十分な数字だが、『声に出して読みたい日本語』と比べれば20分の1未満だ。
 「若い人は会議にウンザリしているが、革命をやれる立場にない。上役は重症な人ほど自覚がない。だから、思ったほど売れない」
 と、齋藤さんは苦笑する。
 それでも、企業社会に切り込む意欲は衰えない。
 11月の新刊ビジネス書『段取り力』(筑摩書房)は、1カ月もたたずに7万部に達した。来年1月には『まずこのセリフを口に出せ!!ビジネスハンドブック』(講談社)を刊行する予定。「偏愛マップ」をテーマにした出版企画もNTT出版で進んでいる。
 その原動力は、何か。
 『会議革命』の編集者、三島邦弘さん(現・NTT出版)は、
 「身近なところにあると思います」
 と語る。『会議革命』の場合、報告書を延々読み上げるような会議に耐えた“私憤”。『質問力』は、子息の質問攻めに遭った体験。2冊とも、だれにでもある体験を独自の仕事に結実させたといえる。
 ●「段取り力」が生まれた
 齋藤さんにとって、企業社会は実は身近だ。静岡県で家具会社を営む家に生まれ、経営感覚を肌で感じて育った。下地は、そこにある。
 遠縁には、企業経営者がいる。「日南」(神奈川県綾瀬市)の、堀江勝人さん(59)。メーカーから持ち込まれる図面を、現物の「モデル」にするデザイン会社。「日産マーチ」やソニーの「ウォークマン」など、ヒット商品を数多く手がけている。
 3年か4年前。齋藤さんは、
 「どういう能力のある人材を採りたいですか」
 と堀江さんに相談した。
 大学のゼミで、就職が決まらないまま卒業式を迎える学生が出はじめていた。ビジネスの世界で直接通用する力を、学生につけてやらなければいけない。教育者としてのプロ意識から出た質問だ。
 「周囲がどう動いているのか、見えている人。自分のことで手いっぱいのヤツは、ダメだ」
 堀江さんは答え、こう続けた。
 「納期から逆算して、仕入れや工程を組み立てる計算力があれば十分だ」
 このやり取りがもとになり、「段取り力」の着想が生まれた。
 「彼は、こちらが何げなく言った言葉をよく覚えているんです」
 と堀江さんは言う。ちなみに、「日南」は社内で会議を極力やらない社風でもあるのだ。
 「斎藤さんは、会社にいたら企画室長にしたいタイプ。『声に出して読みたい日本語』は、すでにある古典を集めて新しいモノを生んだ。まさに『デザイン』の思想です」
 ◆アイデアを引き出す「会議の陣形」
 (1)机の列をバラバラに崩す
 (2)まず、2人1組で紙にアイデアを書き出す
    四角い机なら、机の角をはさんで座り、二人の間に二等辺三角形を作る
 (3)次に、「グループで1番」を決める
    この際に「だれのアイデアか」が分からないようにするのも良い。社内の序列や私的感情を持ち込まないため
 (4)ホワイトボードに「グループ1番」を書き出し、全体でプレゼン
    自分以外に投票  (AERA:2003年12月22日号)
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by horizenryokan | 2004-04-26 11:21 | 考える方法